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仁義なきお茶会 3

last update Last Updated: 2025-06-23 20:32:12

私のコンプレックスー

マーゴにくせっ毛のまとまりのない髪をじっと見られていると、なんだか恥ずかしくなってくる。マーゴの栗色の艶のある髪は私にはないものだから……。

「そんなことよりアレックスさん。最近はお仕事どんな依頼が多いの?」

 くるっとマーゴはアレックスの方を向いた。

「あ? ペットを探している。あ、この前は羊がいなくなった……」

「羊!? 大丈夫でしたか?」

「ああ、捕まえたよ。犯人もな。子羊が盗まれたんだ。高く売れるからな」

「流石です!アレックスさん、うちの紅茶飲みます?」

「いらない。離れろよ」

アレックスは肘でマーゴを押しやり、空になっているカップを私に渡してきた。

「レベッカ、おかわり」

「……あ、はい」

私はポットから紅茶を注いだ。それを見たマーゴはなぜか悔しそう。

「アレックスさん! 紅茶にお砂糖入れますね」

「いらない」

「でも、入れるとすごく美味しいですよ」

アレックスはマーゴの顔を、手のひらで押しやる。

「マーゴ、しつこいぞ?」

「まあまあ、アレックスったら〜ずいぶんと慕われてるわね〜」

押しの強いローズマリーさんでさえ、ちょっと困惑している。

「はい。先週も偶然ベイマーケットで会ったんですよ」

へえ。そうなんだ…………ふぅん。

別に全て話してほしいとは思わないけど-

でもマーゴの依頼……私、立ち会ったのに。猫の見守り兼ねてだけど。彼女のことを私が心配してたのはわかってたくせに。

「アレックス、そうだったの?」

「ああ」

「そのこと教えてほしかったわ」

私たちの会話を聞き、マーゴの声色が変わった。聞いたことのない低い声。

「なぜ? なんであなたに話すの? うちのこと」

「え?……」

呆然とする私。

「アレックスはプロの探偵よ。守秘義務があるわ。あなたはただの召使いって聞いたわ」

マーゴはアレックスと腕を組んだ。

「ねえ、アレックス? 私を探偵の助手にして」

「あぁ?! あほか」

あぁ……アレックスはマーゴと何回か街で遭遇しているのね……この会話の感じ。すごい仲がいいじゃない。

いや、いいことだとは思うの。マーゴはあんな辛い過去があったんだし……。

ローズマリーが私をフォローする。

「じゃあレベッカは、
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